2006年10月09日

ある日淋しい少女が蝶々を取りに行った…オクラホマ!

少女は、おともだちが誰もいないので、独りで沼のほとりにちょうちょを取りに行くんです。
でも、沼で溺れて死んでしまうの。
誰の知られないところで。
クラスメイトは、さみしい少女の弔いの席上で、さも仲良しだったように“あのこいいやつだった”なんてインチキの涙を流す――顔も覚えてないくせに。


こんな、ものがたりを歌ったうたが、ある。

わたしは『オクラホマ!』を観ながら、この歌が頭から離れませんでした。


これはオクラホマの感想を書きますが、これからネタバレの上真っ黒な毒を吐きますのでキヲツケテください。


この『オクラホマ!』というミュージカル、牧歌的な雰囲気と陽気な曲にあわせて、村中総出でひとりのさみしい男を楽しくいじめ殺す話でした。
背景に農民とカウボーイの対立がうっすら描かれているような…感じもしますが、げんだいのにっぽんじんである私にはそんなバックボーンなどないので分かりません。

とにかく。

ひとりの、孤独な男がいた。
ジャッドという名前の彼は、ちょっと暗いけどまじめに働く不器用な男だった。
でも彼は、村の嫌われ者だった。
ジャッドが嫌われている理由は、“暗い”とか“なんかキモい”とかの、根拠のない不快感。
そしてその不快感で村がひとつにまとまっている。

ジャッドはローリーという雇い主の家の少女に恋をする。
でもローリーには、相思相愛のカーリーという青年がいる。

カーリーはある日、ジャッドのところに行って、ジャッドにいきなり自殺をすすめた上で(ホントにいきなりなんですよ)、ジャッドの葬式の話をし始める。
もしお前が死んだらアイツはいい奴だった…って村の皆は泣くと思うよ。
って、村の嫌われ者に向かってそういいます。言外に“だから死んだら?”という悪意が滲んでいる。

普通の神経では考えられないことを、カーリーはしていませんか?
ちなみに、カーリーは悪役ではありません。
主人公です。イイヒトとかいうやつです。

やがて、ジャッドはカーリーに満場の席で恥をかかされて、姿を消す。
そして、カーリーとローリーの結婚式の夜、彼はナイフを持って現れ、ローリーの家を放火しようとして、“ちょっとした事故”でジャッドはカーリーに殺される。
でも、村中総出でいい加減な裁判を開廷して殺人の事実を消し去って、厄介払いが出来たとばかりにいい加減に弔って、カーリーとローリーは予定通り楽しく新婚旅行に行きました。

おしまい。


カーリーとローリー。
ちょっと幼くて、不器用で、愛すべきカップル。
彼らが、ひとりのさみしい男を死ぬまで追い詰めていくのが、全編通して明るいタッチで描かれていく。

その明るさが、怖かった。

ジャッドは何も悪くない。
ただちょっと暗い、社会不適合者だったかもしれないけど。
彼を放火に、殺人に駆り立てたのは、間違いなくカーリーとローリーの、彼に対する仕打ちだった。

右の頬を打たれたら、左の頬を差し出しなさい―― 一見やられっぱなしにも感じられるこの有名な聖句は『右の頬を打たれたら、知らないうちに自分が相手にそれだけのことをしたと悟り、左のほほを差し出して償いなさい』という意味だときいたことがありますが。
右の頬を打ちやがったのでームカついて殺しちゃいましたーあたしを叩いたアイツが悪いんですー。

っていう理屈を通す物語。
アメリカ特有の凶悪な排他主義がなせるわざなのか。
これを、どうして再演したんだ…再演に足る物語なのか。
フルキヨキモノガタリで済ませるにはあまりに凶悪じゃないだろうか。

わたしはこれを見て楽しかったーと言えない。
楽観的でずぼらな私にはめったにないんですけどね…こんなこと…。
ただ陽気に楽しい舞台が怖くて怖くて、もしかしたらこういう日常がわたしたちの日常にも隠れているような気がして、ただ怖かった。

もしや何かを、何か社会的な暗部を暗喩し、警鐘を鳴らしているのか?
百歩譲ってそれだったとしたら、あまりにブラックだ…


轟大帝は、あいあいと意外にナイスカポーでしたよ!
とか、
きりやんはやはり魅せますよ!
とか言ってみてもむなしい…むなしすぎる…
月っ子たちが悪くないから、さらにむなしい…
月組さんは作品面で試練が続くな…いつになったら諸手を上げて通える作品になるんだろう。
こんな作品でがんばっている月っ子たちと大帝を見ていて…いとしいなあと思いました…。
あと、オケがとても上手かったです。ファントムもあなた方の演奏でお願いしたかったです金管の皆様…


そして、冒頭の少女たちの末路。

さみしい少女の弔いの席上で、奇跡が、起こった。
死んでしまったさみしい少女の屍が、朗々と歌いだす。

“望み、叶えたまえ!皆、燃えてしまえ!!皆、同じになれ!!!誰もが漂う小さな灰に還れ!!!!”

物憂げに見ていた神様が、気まぐれでその弔いの席に炎を投げ込んだ。
少女たちは本当に泣き出して、逃げ惑う。
そしてさみしい少女のむくろとともに、誰もが漂う惨めな灰に還る…

posted by 海野モノトモ at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 月組 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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