2007年06月02日

そのとき娘が歪む 悲しい娘が歪む…明智小五郎の事件簿〜黒蜥蜴/TUXEDO JAZZ

 
こころとからだと愛がねじれる。


ヨースイ…あんた…なんて歌を…!

漫画は何百回となく読み返すのですが、小説はあまり読み返す習性がないのです。
でも、なんかトカゲ千秋楽を終えてから思うところあって吉行御大の「原色の街」を読み返したので、いまさらトカゲちゃん考察。


あまりに明智先生にホレ込みすぎて、黒トカゲについて何も書いてませんでいたが、今回の黒蜥蜴の造形も大好きです。

今回もあやねちんはやってくださった。
大王とは違う意味で底知れないひとだ…
ファントムの時も、黒蜥蜴の時も、不憫になるほどばかでっかいハードルを目の前に置かれていたけれど、彼女は毎回それを飛び越える…というよりよじ登って乗り越えてみせてくれる。

ファントムの時はクリスティーヌに感情移入しまくりでエリックを愛しまくりだったのですが、今回は明智先生ののめりこみに乗っかって観ていたので、トカゲちゃんが魅力的で仕方がありませんでした。


 


 


わたしは戦後すぐの混沌とした時代、みんながナチュラルハイになっているあの時代の物語がとても好きなのです。


黒蜥蜴が本性を現した時、警察に囲まれて不適に笑って言う

“だから日本の男はアメリカに負けるのよ”

というセリフにあの頃のおんなのリアルを見ました。
こういうセンスは好きよ木村先生。

かつて某川原女史の漫画に“国の偉い人がみんな女だったら、戦争も全部口げんかで済むのにね”という主旨のとぼけたネームがありました。
もちろんありえないほどお気楽な理想なんですが、本当にそうであったらどんなによいだろうとも、思うわけです。

戦争が終わって、男の世界に存在“させてもらっていた”女達は、戦争に負けたことによりある種“とばっちり”を受けた。
そして、男を信用しなくなったおんなたちがいた。
男に頼れないと悟った彼女たちは、虚勢を張って細い肩で風を切って生き抜こうとした。
その健気さが好きなのです。
今よりもっとおんなが生きにくかった時代です。

全て割り切って、笑って、からだを武器にして生き抜いていったおんなもいた。
一方で、からだを使って男を利用するほど器用ではなかったおんなもいたでしょう。

トカゲちゃんは、後者だったのではないでしょうか。
そして、全てを割り切るには子供すぎたのかもしれません。

彼女は必要以上に処女だと言い募る。
最初こそ木村先生をのろいました。
しねばいい!(byトート)とひゃっかいくらい思いました。
でも少女が純潔を主張するその言外に滲むのは“男なんかに一度としてからだは許さなかった”という男に対する強烈な不信感。
からだをさらけ出して男を利用することが出来なかった。
あやねちんのなんとも絶妙なニュアンスのおかげで、トカゲちゃんが処女であることを駆け引きの材料にしているように捉えずにすんだので、いつの間にか気にならなくなりました。

少女の奥底には男という性別に対する憎悪があると思うのです。
だからこそ、明智先生に無駄とも無意味とも思えるイチャモンを吹っかけるんだと思うのです。
男なんてみんな馬鹿ばっかりよ。
そう自分に言い聞かせたくて、名探偵として名を馳せている男を転落させたいと、たぶん無意識に思ったのだろう。

黒蜥蜴や緑川さんは、少女の身にまとえる限りの棘であり、鎧だったのだと思います。
で、少女は自分を防御しながら男に立ち向かった。

そう、もともと少女が悪女ぶっているだけなのです。
できるだけ大きな鎧を着て、強くみせているだけなのです。
緑川夫人でいるとき、女賊であるとき、少女はかなり“無理”をしている。
それこそが、戦後のおんなであるきがするのです。
しかも、東京に来てすぐぐらいから、鎧としてまとっている女賊やら夫人やらの下の“少女”が時折透けて見えてくることがあって胸に迫りました。

生きることなんてそもそも哀しい、でも哀しいって思えることは幸せなことだと言って笑った少女は、どんな思いで男たちがした戦争の傷跡と向かい合い、どれだけ気を張って、生きてきたんだろう。
哀しいと感じることで生きている実感を得ていきて、やっと愛されることで生きている実感が得られそうになったのに、それなのに最期にあんなことになっちゃって、あの子、何のために必死で生きてきたんだろう。

そう思うと、明智先生も独楽がなんだーくらいのことは言いたくなるでしょうよ…
 

黒蜥蜴=少女という着眼点は、木村先生すごいなあ、と思いました。わりと素直に。
かわいいあやねちんは、緑川夫人や黒蜥蜴を“無理して”演じるところから始めなくちゃいけないのはわかりきっていたことで。
そのあやねちんの背伸び具合と少女そのものの置かれた境遇が重なったということもあるかもしれません。
ちょっとだけ木村先生を尊敬しました。

でもそのちっぽけな尊敬を吹き飛ばして余りある侮蔑が心にわいたのも確かですが。
私がこの公演にハマれたのは、ほんとうに大王とあやねちんのおかげだと思います。
大王の明智先生が、演出家の意図とは違う形でエキセントリックなカリスマとして見事に孵化したのと同様に、あやねちんの黒蜥蜴が、のっぺりとした台本から離れて明智先生と対を成すようにいきづいていたから。
今思っても、公演楽しかったなあ…と、DVDのジャケットを見ながら思ってます(公演を満喫しすぎてまだDVDが観られない)。
posted by 海野モノトモ at 16:03| Comment(4) | TrackBack(0) | 明智小五郎の事件簿〜黒蜥蜴/TUXEDO JAZZ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして。ココナッツミルクと申します。
ずっとずっと海野さんのblogを読ませて頂いていますが、おこがましくてコメントなんて...書けなかったのを敢えて勇気を振り絞ったのは(一方通行の)再会を果たせたからです...
うっかりこちらへの入り口をなくしてしまったので...焦りました。
ああ...よかった...。

海野さんの観劇日記が大好きです。
何より、春野さんへの愛が溢れていて、読んでいて幸せな気持ちになり、共感したり、納得したり、発見したりできる喜びを得られる、私には今となっては唯一の観劇記です。
そして、ヨミの深さと、引用のおもしろさ、それらを支える広い知識とユーモア溢れる言い回し、すべてを総括する文才に、いつもため息が出る思いで読ませて頂いています。
こちらのblogを春野さんご本人やたくさんの春野さん、そして宝塚ファンの方々に読んで頂きたいっ!と何度思ったことか!!
なんだかちらほら意地悪な気持ちの見え隠れする感想などを見かけるたびに憤っている私には、救いの場所でもあります。

主婦で小さな子供が二人いて九州在住の私は、一公演に子供たちを引きつれて一度行って、多くて4回観るのがいっぱいいっぱいなので(因みに娘もすみれさんが大好きです)、これからも、時に実際観る以上に感動することさえある観劇記、そして愛に溢れた日記を、ずっとずーっと読ませてください。
楽しみにしています。

初めてなのに、長々と失礼いたしました。
Posted by ココナッツミルク at 2007年06月04日 04:50
>ココナッツミルクさま

はじめまして。
コメントありがとうございました!

入り口、どこかへ行ってしまったのですね…
見つかってよかったです〜これからもよろしくお願いいたします。

観劇感想、いつも読んでいただいているとのこと、ありがとうございます!

いやもう…褒め過ぎです…恥ずかしくて溶けちゃいそうです…。
とにかく興奮のままに粘着質な萌えを無責任に書き連ねているのですが、
楽しんでいただけているのであれば嬉しいです。

おっしゃっていただいているほどの知識とか文才とかはさっぱりないような気もしますが、間違いなく春野さんへの愛だけはたっぷりあります☆

というか、ご本尊には読ませられないようなことばかりを書いています…
もともと、春野さんにお伝えできるようなことであれば、堂々とおてがみを書くのですが、
あまりにアレなのでこんなところに垂れ流している次第なので……

愛に澱みつつあるブログですが、よかったらなまぬる〜く見守っていただければ嬉しいです。

春野さん好きのお子さんがいらっしゃるんですね!

親子でファン…憧れです!

とはいえ、ご自分のためだけに時間を使えるわけではなく、きっとたくさんのことを我慢しなくちゃいけないのだと想像いたします。
ご家族のために日々頑張っていらっしゃるおかあさんは、本当にすごいといつも思います。
わたしは己の欲望のためだけに突っ走っているといっても過言ではないので…

こんなわたしのブログでも、何かしらの助けになっているのでしたら、嬉しいです(そのわりにはレポートがヘタで申し訳ないのですが…)。

また遊びにいらしてくださいね。
Posted by 海野モノトモ at 2007年06月05日 22:17
海野さん、ありがとうございます、ありがとうございます。 励ましのお言葉に、なんだか泣けちゃいました。 やっとの思いで海野さんにお手紙?したのに、こんなタイミングでこんなことになってしまい... ...いえ、覚悟はしていたんです。 ディナーショーのレポートを拝見して、妙に確信してしまっていたので...... だけど、まだ、現実として受けとめられず、どうしたらいいんだろう...なんて、答えのない問いで心が埋められています。 私も、春野さんが初恋ジェンヌさまなので(いえ、もう、二度と愛せないっ!)、気持ちの整理の仕方が分からなくてパニくっています... ただ...全ての道が春野さんを幸せに導いていますように...願いはもう、それだけです...ね...。 思い入れの深い『...わはは』語りに加わりたかったのですが、心は定まらず... 失礼致しました。
Posted by ココナッツミルク at 2007年06月06日 22:22
>ココナッツミルクさま

コメントありがとうございます!
遅くなっちゃって済みませんでした…何しろ……。

わたしも気持ちの整理どころか、とっちらかってしまって…。
長年タカラヅカファンをやっている方は、送り出すことに慣れている方もいらっしゃるかと思いますが、私は本当に初めてなので、泣きながらオロオロと右往左往するばかりです…。
ココナッツミルクさまも初めてなんですね。
哀しんでおられるのに、春野さんのことを第一に考えられていて、なんと優しい方だろうと思いました…。
“全ての道が春野さんを幸せに導いていますように”…私もそういう気持ちになりたいです…(いつか)。

“…わはは”、思い入れが深いとのこと、ああなんだか春野ファンは川原女史ファンが多いのかしら、と思って嬉しくなってしまいました(そういえば女史も九州のご出身でしたね)。

川原作品語りは、またの機会に是非…(春野さんの舞台を観ていると、私のことですから、きっといつか川原作品が出てくると思います…)
Posted by 海野モノトモ at 2007年06月11日 20:53
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