2008年02月01日

蒼き狼の末裔は西を目指す…キル


大王が日比谷にご降臨だとメールがじゃんじゃん入ったのですが、私はおなじころシアターコクーンでノダマップのキルを観てました。
ああ観てましたとも。
悔しくなんてないやい。

ていうか、千秋楽でビックリしました(会社の先輩のピンチヒッターだった)。
ヒロスエと山田まりやちゃんが出てると聞いて飛びつきました(不純…)。
ヒロスエ大好きなんだもん。

私は野田版研ぎ辰の討たれを観て怒り狂ったクチですが、今回は本当に感動しました。演出だけじゃなくて脚本があってこその野田芝居なのだなあと痛感しました。


んでもって、荻田先生がアレックスでやってみたかったことって…これだったわけ…か…(先生ったらインスパイアのされ方がわかりやすすぎです…)。


私のアレックス観劇時にかんじたイライラは、荻田先生が“キル”という既製品の影響下にいて、そのくせそれを越えるものを創っていなかったためだとやっとわかってものすごくすっきりしました。
キルの世界観から言えば“型紙の外にも世界がある”のに、そこへは行こうとはしない…といったところかしらね。


役者陣は、決して引けをとらないのに…(引けをとっていたのが脚本だったと言うことがまた…ねえ)。

ということはいつか気が向いたら別項で語ろうかと思いますが、今はキルの興奮を。
 


ある意味ネタバレであります。


ほんっと素晴らしい舞台だった。

あらすじは説明できません…あまりに多重構造で。
一応頑張るけど、絶対伝わらないと思うので、是非ともDVDを観てください…(いつの間にまわし者に…)

もんのすごく大きく言うと、モンゴルの英雄・ジンギスカンの東→西の侵略の様を、ファッション業界の栄枯盛衰になぞらえて描いているというか。
ストーリー的にはモンゴルの洋服屋・テムジンが羊毛の服を世界中の人々に着せることを野望として掲げて日々服を作り続けていた(同じ羊毛の“制服”を着せることこそ、“征服”なのだ、と考えて、服を作り続けるのです)。

ある日、絹の国から来た美しい娘シルクに恋をする。
しかしシルクは西方へさらわれてしまう。
彼は羊を捨て、東の地(羊の国)からシルクを求めて西を目指す。

武器をウールからシルクに代えて。

一方で蝋人形(マネキン)の世界。
服を着ているようで、じつは着せられているひとびとは、デザイナーとは隔絶した世界にいる。
交わるようでいて交わらず、蜃気楼の向こう側のような、幻でもあり、敵でもあり、表であり裏である不思議な世界(実はシルクという“異物”は、マネキンの世界から投げ込まれたにんげんだった)。

そんな状況で父と子の愛憎、因果応報、流行と衰退までが絡めて描かれていきます(もはやむりだ)。


めくるめく。
ものすごかった。


なにより日本語の美しさ。ちりばめられた言葉遊び。
色鮮やかに色彩が飛び散るような美しいことばの羅列。

ことばは重なり合っていつしか意味を変える。

キルとは着るであり、斬るであり、KILLであり、切るであり…そして生“きる”、であると。
陽炎・○○(うわー忘れた)・蜃気楼・徒労(押韻ってこうですよー)。

そしてなによりガツンときたのが、言葉の存在そのものが意味を持たされていること。
だからこそ、言葉遊びが多く、そして言葉の数が絶対的に多い。
多いことに意味があるんだもの。

登場人物たちは、一人を除いてみんな字が読めない。
男女(テムジンとシルク)は、代筆を立てて恋文のやりとりをする。

代筆者が自分が書いた恋文をそれぞれ男女に読み聞かせる。

やがて女はおとこのよこした言葉に恋をする。
代筆者の向こうにいる男よりも、代筆者の手に、言葉に恋焦がれるのです。

一方での裏切りも、言葉によってなされる。
だれも文字の読み書きが出来ないのに、どの世界にも“言葉”が、あまりにも大きく横たわっている。
言葉というものの存在そのものが意味を持っているからこそ、セリフが多い。
空虚な単語などひとつもなかった。


色々あって(すみません)たたかいの末、テムジンは孤独になる。
周りにいる人々は変わっていないのに、彼は傷つき、絶望し、孤独になり、それでも戦うために戦い続ける。

やがて敗れ、そのとき母が叫ぶ。
「羊のくににもどろう」

テムジンは絶望の果てに希望を見出す――一度捨てたあの地へ。
羊毛は羊の水、羊水へと回帰し、一度は捨てた母の胎内という“地”へもどり、テムジンは生まれ直すのだ。

夢と現実が重なり合い、歴史とフィクションが重なり合い、人間とマネキンの世界が重なり合い、与えるものと与えられるものの世界が重なり合う。
重なっているのか、表裏なのか、同じものなのか。
それすらもわからなくなっていく。


そして、最後に強烈な想いと志がぶつかってくる。


ひとは孤独で、孤独だからこそ自由で、孤独でないことを選ぶのもまた自由なのだと。
そして、絶望のむこうに希望があるのだと。


すごいもん観ちゃったよ…!


そしてやっぱり思い出すのはアジアンウインズの頃の大王ですよ…(何観ても絶対最後はここに帰結する今日このごろ)。

舞台がモンゴルっていうのもあってさ。
蒼き狼の末裔って、何度も何度も言われるもんでさ。
そんでもって、孤独っていうキーワードで思い出すのはやっぱり大王な訳で。


あやねちんと組んだあとの大王の男役って孤独と自由、絶望と希望を全部飲み込んで笑ってたなあって。
絶望の果てに希望があり、孤独と自由は表裏一体なのだという“事実”を受け入れたからこその、笑顔だったような気がします。
諦念が漂うのに、悲観的ではなく、淡々と穏やかに前に進んでいく印象。

大王がすべてが表裏一体なのだという境地にたどり着いたとき、隣にあやねーがいたんではないでしょうか。
あやねーは大王の男役像にとって、最後にたどり着いた希望だったのだと思う。
だからああいう顔で笑ってたんだなあ。


あ、いや、ふーちゃんが絶望と言うことではないですよ。
ふーちゃんと組んでいる時はまだもがいている状況だったように思います。
絶望をもてあまし、孤独と戦っていた気がします。


鮮やかな変化・羽化を舞台の上で見せてもらえて本当に幸せだったなあと思う。
そのことを、拍手をしながらしみじみと考えました。

奇しくも大王がご降臨なされた日に、こういう芝居が観られて私は幸せであります。

 
posted by 海野モノトモ at 04:28| Comment(2) | TrackBack(0) | 舞台&ライブ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おひさしぶりです。
海野さんは変わらずお元気そうで(会ってないけど)
感情の変化もすごくアグレッシブで
とても素晴らしいですね〜◎
ワタクシはずっとローな感じで
激しい「喜」も「怒」も
無くしてしまったような毎日を過ごしております。

「キル」は堤真一&羽野晶紀版を
10年位前に映像で観ました(すげぇ昔だ・・・)
堤テムジンの「熱量」で一気に駆け抜けた作品、という印象でしたが
妻夫木氏はどうだったのでしょう?
羽野シルクと広末シルクは、
まるで別物だろうなぁ(笑)

ちなみにおぎたてんていは「夢の遊眠社」ファンだったらしいので
この作品に限らず多分に野田DNAを摂取したんだなぁと
実感する機会が多い気が致します。

また、寄らせて頂きます〜。
Posted by みつよ at 2008年02月01日 11:02


>みつよさま

お久しぶりです。

みつよさまはお元気…ではないのですね…。

わたしは12月24日が来なかったかのごとく元気です…。
多分それはわたしが春野氏を“舞台の上のイキモノ”だと認識しているむきがあるからかもしれません。
そのイキモノは舞台に乗っていないときは冬眠しているので…。
在団中はオフの時も、お稽古中も、わたしにとっては冬眠中でした。
いまなお冬眠中で、春が来れば目を覚ますと信じて疑ってません。
春が来るのを待つのみでございます。
春よ来い…少しも早く!(じつは死ぬほど待ち遠しかったりします…)


「キル」素晴らしかったです。
つまぶきテムジンは悩むひとでした。
そして何かにせきたてられ、巻き込まれるようにして西を目指していました。
ヒロスエシルクは、野性が知性に変化していく様が鮮やかでした。そしてとても強かった。
余談ですが腹筋が割れてました…。

おぎたてんてえは、やはり野田学級の子でしたか…。
マラケシュではそうは感じなかったのですが、アレックスではそれがイタいほどそのまんまでしたね(わたしはアレックスを観てからキルを観たので、ますますおぎたてんてえの背伸び具合がいたがゆかったです…)

摂取したものを咀嚼し、消化して血肉として取り入れる分には大賛成ですが、食べたはいいけど消化しきれずゲロンパ☆したものをそのまま見せられても困っちゃうにゃーという…

ただ、アレックスはせなじゅんはじめ役者単体で考察していくとたいへん面白いつくりになっていると思います(でもおぎたてんてえのおおきなおなかを越えてまで考察する気力がわたしにはなくて…)

長々と失礼いたしました…。
また遊びにいらしてくださいね(あ、岡村ちゃん…つかま…っちゃ…)。
Posted by 海野モノトモ at 2008年02月11日 03:54
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